SCALERSモデルおよびその事例


では、簡単に、7つの組織能力について、例を併せて見ていきたいと思います。全ての組織能力に長けるということは不可能です。団体の出発地点の経営資源がどのぐらいあるのか、あるいは変化の法則がどういうものと関係しているのかによって、どの組織能力を伸ばすのかが変わってきます。

まず、人的資源管理です。非常に重要です。労働力や人材、組織を運営していく人物として適切なリーダーを確保することが必要です。

人的資源の管理が上手くいった例としてTeach For Americaがあります。アメリカで展開しており、大学を卒業した学生が、先生に来てもらえないような教員不足で悩む地域へ2年間教えに行くというものです。このような若い卒業生は、教師になる教育を受けられないことが多々ありますし、そのような教育を受けたにも関わらず、異なる職に就く人もいます。

Wendy Koppというリーダーのもとで、Teach For Americaのプログラムはとてもおしゃれな、クールなことを始めました。とても素晴らしく人気があるやり方になりました。Teach For Americaで働いた、プログラムに参加したということは、履歴書の中でも大学院に行ったのと同じぐらい評価される、とても光る経歴になるのです。

今は参加までに順番待ちができるほど、人気があるプログラムになっています。成績のよい優秀な学生が参加したがります。アイビーリーグ、例えばハーバード大学やコーネル大学といった素晴らしい、トップクラスの学校の卒業生が、どこの職業に就くよりも、Teach For Americaに参加したがるほど、人気のあるプログラムになったのです。

ハーバードに行ったことと同じように思われるほど、そして参加するのに激しい競争が必要になるほどの人気のプログラムになりました。そうなれば、ますます能力のある人たちを呼び込むことができるようになります。

プログラムの修了後も教師として働く人もいます。長い間、教職に就く人もいます。そうはならなくても、少なくともアメリカの学校で教えるということがいかに重要で難しいかということがわかるので、のちに教育に貢献する人もどんどん出てきます。プログラムでは、収入はそんなによくありません。連邦政府が、全額ではないのですが、補助金を出していて、教師の給与の一部に充てています。

このプログラムは本当に成功しています。ここで働くこと自体がとてもわくわくする、楽しいといった環境を作っているので、人的資源の管理が上手くいっているという意味で非常に成功している例だといえます。

マネジメントの移管について例をあげます。ソーシャルベンチャーを設立しても、管理が下手という人もいます。リーダーシップと両方の能力を必ずしも備えているというわけではないのです。

John WoodはRoom to Readを設立し、発展途上国で図書館を建設するために、アメリカで資金やエビデンスを集めることは上手かったのですが、日々の管理にはあまり長けていませんでした。その代わりにErin Ganjuにこの座を渡しました。団体がもっと成功するために、適材適所を図ることで上手くいった例だといえましょう。

もう一つ人的資源管理が上手くいった例で、Playworksがあります。この団体は学校の休憩時間を効果的に管理しました。日本でも学校の休憩時間はありますか。アメリカの多くの学校では、体育の時間がなくなってきているのです。子どもに30~45分を与えて、「運動場で勝手に遊びなさい、そのあと教室に戻りなさい」と、休憩時間を体育の代わりに充てています。

子どもたちは、学校の休憩時間ではケンカばかりして混乱した状況になっています。先生たちは、休憩時間のあとの教室で、子どもたちを落ち着けさせるのが難しいことに気づきます。といっても、休憩時間に子どもを監督するのしたくはありません。

ということで、Jill Vialetが休憩時間の子どもたちにゲームを行い、コーチを派遣してケンカのあとの仲直りの方法を教えました。Playworksで働くコーチを上手に集めることができており、100校で休憩時間の管理をするようになりました。

ここで、興味深いのは、コーチが子どもたちにゲームをさせている間に、コーチの観察もするということです。というのは、ある人がよいコーチになれるかどうかは面接だけではわからないからです。実際に子どもと遊んでいる状況を観察して、この人ならいけるだろうと考えたときに雇うという形をとりました。人的資源管理の上手いやり方であるといえるでしょう。

次にコミュニケーションです。これも重要な組織能力です。変化の法則が機能し、支援する価値があると関係者に納得させる能力を指します。まず、上手くいかなかった例をご紹介します。

アメリカで妊娠中に飲酒しないことの重要性を説いた団体があります。私もここを調査しました。妊婦さんにアルコールを摂ってはいけないということを説得するのは、アメリカでもイギリスでも難しい問題です。多くの女性が妊娠中に飲酒しています。妊娠中は飲んではいけないのです。

日本ではわかりませんが、アルコール類の瓶の外側には「妊娠中は飲まないように」と謳っているのですが、それにも関わらず、多くの妊婦さんが飲酒をして、お腹の赤ちゃんを危険に晒しているのです。つまり、妊娠中の禁酒を奨励することがまだうまくいっていないことから、悪い例といえるでしょう。

今度は、成功例です。乳がんの研究のために寄付を募り、マンモグラフィーの資金集めに成功した組織です。Susan G. Komenという団体で、コミュニケーションに本当に長けていました。

まず、全てをピンクで統一しました。ピンクリボンを身につけて、Race for the Cureという治療のためのマラソンレースをアメリカやほかの国々で展開しました。乳がんから生き残った人たちがこのレースを走り、多くのお金が集まりました。参加費などを乳がんの検査、研究などにあてました。大変に上手いやり方だったと思います。

ブランド構築も上手くいったと思います。つまり、ピンクというテーマカラーに絞って訴えかけたということが効果的でした。

次は、アライアンスのことです。協力・提携関係の構築ということも重要な組織能力です。ほかの組織と一緒に、同じような社会の利益をもたらすために協力する。お互いに金銭面を含む支援をしていくという試みであったり、組織能力であったりします。

ご紹介するのは、軌道に乗り始めたプログラムです。Samuel Adamsというボストンのビール会社が行なっています。この会社は、Accion USAというマイクロファイナンスを手掛けている金融機関と提携しました。

Accion USAは、プログラムを開発し、レストランやバーのオーナーなどの中小企業に資金を提供することで、より多くの雇用を創出しようと考えました。世界では今、失業率が高くなっているという問題があります。Samuel Adamsは失業率を懸念していたので、Accion USAと協力して、レストランやバーで雇用を創出して、失業率の問題を解決しようと考えたわけです。

今のところうまくいっているようです。どれくらい続くかはわかりません。同じビール会社が提携したものでも、先ほどお話したROAD CREWは大酒飲みを奨励するというよくない評判を得てしまいました。

一方で、こちらは雇用の創出が目的です。人々の飲酒量を増やすような試みではありません。つまり、協力しているSamuel Adamsの評判はよくなり、関係者や地域の人たちにもよい印象を与えることができるかもしれません。

次はKaBOOMです。たった1日で貧困地域にとても良い公園をつくるという素晴らしいシステムを構築しました。その方法ですが、公園を作る場所の地域のコミュニティと企業が連携して、その連携をサポートするというものです。

公園を一緒につくるということは、とても素晴らしい経験として参加者の心に残るものです。公園を作る日には100人ほどのボランティアが集まります。

企業にとっては、チームを作ること、社会的責任という形で良い経験になりますし、寄付をして、社員も参加することでPRにもなります。一方、地域の側では、チームワークを作ることができます。リーダーたちが、どんな公園を作りたいかという具体的な形を考えていきます。そういった中で、全員が素晴らしい、楽しい経験ができるのです。アライアンス構築によいということです。

次はロビイング、政策提言の重要性です。Alexが、社会起業家にとっての政府やプログラムの重要性について話をしました。補助金ではありませんが、何らかの形で政府からの支援を受けているのが現状です。

アメリカの社会起業家でJim Fruchtermanが多くの資金を集めて、戦争に疲弊した国に対して地雷の除去に取り組む慈善事業を行おうとしました。人々が地雷による被害にあわないようにしようとしたのですが、アメリカの国防省の許可が必要でした。

もちろん、彼は許可が下りるだろうと思っていましたが、実際は得られなかったのです。プログラムは失敗に終わりました。正しいロビイングができていなかったのです。国防省を動かすには、やはりそれなりのロビイングが必要だったということで、これは失敗例のひとつです。

次は成功例です。Tobacco-Free Kidsは子どもたちに禁煙を促すキャンペーンです。この団体は、若者を喫煙から遠ざけ、禁煙を促そうというものです。団体のメッセージは広告を広く利用しています。TVやポスターで同様に禁煙を促している団体もあります。

Tobacco-Free Kidsの活動によって、たばこ税が上がりました。表を見ていただくと、タバコの消費が年々減って、たばこ税が非常に上がっていることがお分かりいただけるかと思います。このように若者がタバコを手に入れるのを難しくするキャンペーンの一役を担っているのです。

また、18歳未満の喫煙は法律で禁止されているので、英語でSting Operation(おとり捜査)というのですが、おとりの若者を使って、小売店に対して年齢確認など法律を守るようにさせるキャンペーンも行っています。おとり捜査が上手く機能している例といえます。

収入源を確保することもスケーリングの重要な側面です。資源や財産が必要です。

ノースカロライナ州に本部を持つSelf-Helpという団体があります。彼らは貧しい人たちに住宅ローンの形で投資をしています。彼らはローンの支払いができる人を選ぶことに長けており、申請プロセスでお金を返せるかどうかのスクリーニングを完璧に行える、素晴らしいシステムを立ち上げました。

融資は必ず返ってくるので、ビジネスとしては充分成功だといえます。その利益でスタッフを雇うこともできます。スタッフの給料は87,000ドル以下で非常に少ないものです。CEOも年間で3,000ドルしか給与を得ていません。利益はロビー活動などに活かしています。

団体は法律も遵守しています。アメリカでは、消費者保護のため、金融機関は住宅ローンに関して消費者を正しく公平な形で信用を検証してローンを行う、という法律があります。この団体に関しては、この法律に背くこともなく、住宅ローンの提供を行って成功しているのです。

次の成功例はサンフランシスコに拠点があるREDF(The Roberts Enterprise Development Fund)という開発組織であり、非常に多くの団体を抱えています。時間がありませんので詳しくは話せませんが、パン屋やリサイクルサービス、クリーニングサービスがあります。ベッドバックといってホテルやアパートでベッドメイキングをしています。多くの場合、普通は人がやりたがらない仕事を請け負っているということです。

刑務所に収監されていた人や麻薬常習者であった人など、なかなか雇用されないような人を雇って、そういう人たちに働いてもらうことで収入を得ています。とてもうまくまわっており、持続可能な状況で事業が進んでいる例です。

レプリケート、反復という意味ですが、ビジネスモデルの普及はスケーリングのために必要な要素です。何らかのシステムとして反復ができなければなりません。カリキュラムガイド、プレイブック、ブランド創出などによって事業を反復、コピーしやすくします。

KickStartは、アメリカに本拠地を持ち、タンザニアやケニアなどアフリカで活動しています。「お金を生み出すもの」としては、800ドル以下で圧力灌漑ポンプを発売しています。これは、貧しい人たちが畑に水を供給するために開発しました。操作しやすい機械で、いろいろな場所で使うことができます。製造にはそれなりにコストがかかっています。眼鏡のように、たやすく安価で反復可能なわけではありません。

マーケティングが必要になります。そして、マーケティングを行うセールスマンに機械の使い方を教えなければならないのです。また、農家の人たちにも、機械の価値や使い方を教えなければなりません。スケーリングにおいて問題が生じたのです。

マーケティングコストを抑えることが上手くいかず、販売スタッフとしてたくさんの人を雇わないといけなくなり、多くのコストが掛かってしまいました。自分で理解できて使えるようなものであれば、セールスマーケティングコストを抑えることができるのです。

自分で店に行き、自分がほしいと思えば買うというのであれば、セールスマンは必要ではありませんよね。そういうスタイルを取れなかったために、スケーリングの問題が発生しました。コストがかさみ、マーケティングも上手く進まなかったのです。眼鏡に関していいますと、日本では実際検査せずにもう買えるようになっていますね。アフリカでもアジアでも、眼鏡のように自分で買えるようになれば、レプリケートできるようになるかと思います。

最後のポイントとして市場の創出をあげたいと思います。市場の力を刺激していくということです。バイヤーであれ販売者であれ、インセンティブとして社会的課題を解決していくということによって、スケーリングで成功していくことができるのです。

なかなか日本の方には理解しづらいかもしれませんが、1つの例を説明させていただきます。Kevin Trapaniは私の友人なのですが、ノースカロライナに本拠地がある傷害保険を売る会社を経営しています。怪我をしたときに保険会社が支払いを行いますよね。保険に入っていれば、事故もカバーしてくれます。

彼らの優れているところは、YMCAのキャンプに関わっていることです。YMCAはご存知ですか。YMCAは日本にもありますね。多くの子どもが所属しており、夏にはプールに行ったり、キャンプで水泳をしたりしています。

保険会社は損害請求を少なくしたいのです。そうすることで保険会社は支払いを抑えることができます。損害請求には2つの原因があります。子どもがキャンプの水泳中に溺れてしまうこと、もう1つは子どもが性的虐待に遭うということです。これらの問題で損害を請求するケースがアメリカではよくあります。

Kevinは、損害請求、そして課題自体を減らすようなプログラムを試みたのです。子どもが溺れないように水泳の訓練プログラムを立ち上げました。この結果、キャンプでの怪我や溺れる子どもはゼロになりました。性的虐待についても、同じように人々に教育し、参加者が互いに見つけ合うようにすることで犯罪が減りました。性的虐待が見つかれば職を失ってしまうからです。

このように課題の根本をなくすプログラムを作って、保険会社が利益を得られるように、つまり補償額を減らすことで企業の収益が上がったということです。また、子どもが溺れたり、性的虐待に遭ったりという社会的課題も解決できたのです。このような機会があるということです。

フェアトレードも同じようなコンセプトだといえます。フェアトレード製品を売ることで利益を上げることができますし、栽培者、プランテーションを行う農家の人たちも利益が得られます。さまざまなインセンティブがあるということです。

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