互いの講演を聞いての感想


服部篤子

今日は、Alexはイギリスの話、Paulはアメリカの話をしていただきました。それぞれ事情をよく知っているようではあるんですけども、まず最初にお互いのプレゼンテーションを聞いてどのように思ったのか。

例えば、Alexの話の中には政府・政策の役割がやはり重要であるということが出てきました。あるいは資金の流れがダイナミックで、メインストリームの金融機関も動かしているわけです。そのような動きをPaul先生はどのようにご覧になったんだろうか。

一方、Paul先生の話はソーシャルビジネス自身がどのように働きかけなければならないのだろうか。例えば、人材にしても私たちには非常に難しい問題として課題を抱えているわけですけども、いくつかの事例に基づいてこういう事業の拡大の仕方があるんだということを見せていただきました。それに対してAlex先生はどのようにご覧になったのだろうか、ということでまずお話を聞いてみたいと思うのですが。

Paul N. Bloom

Alexの話についてコメントをしたいと思います。Alexのプレゼンを聞いて思い出したことがあります。イギリスでは政府が進んでいろいろ実験的な試みをしている。そして社会的企業、社会起業家を支援しようとする、アメリカよりももっと大規模に支援をしているということを聞きまして、本当にすばらしいことだなと思いました。いろんな団体で実験的なやり方をやっており、その恩恵を享受できるということは素晴らしいと思いました。

Alexとその仲間をこの数年間で何回も訪ねました。イギリスに行くたびに驚きます。いろんな団体がイギリスに本拠地をおいて、素晴らしい事業を展開しているということに。

アメリカにももちろん素晴らしい団体はありますけど、本当に工夫をこらした革新的なやり方をイギリスでやっているのを見てきました。それを政府が支えているのだなということがよくわかります。

アメリカのことを私はあまり話しませんでしたが、イギリスの事例に倣ってアメリカで試みていることもあります。Social Innovation Fund(ソーシャルイノベーションファンド)というのがアメリカで展開されています。

5,000万ドルを拠出して、社会的企業に直接ではなく、11の異なる中間支援組織に配布してマッチングをする。つまり、パン屋さんや白蟻駆除業者といった民間からの寄付金とマッチングさせるということです。中間支援組織に資金を提供することで4倍にも拡大できるということです。比較的新しい試みで、今年で3年目です。

まだ評価は行われていませんが、関わっている人たちとお話をすると少し懐疑的だということです。第一に、あまり金額が大きくなく、団体に与えられるのが少ないということ、第二に、いわゆるお役所仕事、官僚主義に阻まれているということでお金をもらうために多くの書類を記入し、会議に何回も出なければならないなど手続きも複雑であるということです。それだけをする価値があるのかなと。それだけ時間や手間をかけて、得られるのはこのぐらいだということで、懐疑的な声も上がっています。

イギリスでやっていることをアメリカでもやろうというふうにしているのですが、イギリスの事例を上手く取り入れて運用できているのかについては、私は疑っています。

Alexはソーシャルインパクトということをお話しました。これについて、少し専門的になりすぎるかもしれませんが、簡単に説明したいと思います。

Social Impact Bond(ソーシャルインパクトボンド)というのは、イギリスで試みられているローンのことで社会的企業に提供します。その団体はある約束をします。あるプログラムを提供することで、政府の支出を減らせるようにするわけです。

まず、イギリスで行われたのが、一度収監された人が、再犯して監獄に戻ってくるのを防ぐためのプログラムです。これによって政府の支出が減るはずです。というのも、刑務所に入る人が少なくなるほど支出が減るからです。これが上手くいけば、そのローンを返すということです。

一方、このプログラムが上手くいかず、刑務所に入る人の数が減らなければ、民間投資家たちはローンを寄付にして、リターンを求めないということです。これは始まったばかりですが、プログラムは刑務所と一緒に行っています。

また、子どもの栄養失調であるとか、病院に行くなどのヘルスケアが必要なくなるように、健康の面でも実施されています。うまく機能すれば、保険の支払いも少なくて済みます。

アメリカではMedicare(メディケア)やMedicaid(メディケイド)という保険があるのですが、これは障害者や貧困層のために病院の医療費のために使われるものです。子たち達の栄養の問題を改善できるならば、この支出金も減るでしょう。投資した債権に対するリターンも増えるでしょう。もし、治療が必要な子ども達の数が減らなければ、この債権は貸し手、あるいは投資家の責任になり、国は彼らにお金を返さないというスキームになっています。

複雑な考え方ですが、これはイギリスから持ってきた考え方でアメリカでも同じようなことを展開しようとしています。ですからAlexの話を聞いて、今言ったようなことを思い出しました。

Alex Nicholls

ありがとうございます。Paulの話を聞いて、いくつか素晴らしいなと思ったことがあります。夏に出版されたPaulの本をぜひみんなで買わないといけないなと思いましたが、それ以外にも素晴らしい情報があったと思います。

スケーリング、インパクトを拡大するということは、団体自体を大きくするということと、同じ場合もありますけども、必ずしもイコールではないということを思いました。つまり、団体としてどんどん大きくなることだけが目標ではありません。影響力を拡大するということが目標ですね。

例えば、既存のプログラムを改善すれば、影響ももっと大きくなるということがありますね。従来型の企業のビジネスモデルは、規模の経済が働くので大きくなれば有利だと考えます。でも社会的企業の場合は、それがいつも言えるわけではありません。

これが重要なことだと思いました。固定費が相対的に少なくなり、売り上げの中で利益が多くなるので普通はよいことですが、社会的企業の場合は必ずしもそうではありません。団体のサイズとスケーリングが同等ではないということです。

もう一つ重要な点は、いろいろな事例をあげてくださったことです。私はソーシャルビジネス、社会的企業についてお題をいただきました。Paulの例を聞くと、従来型のビジネスとは違うことがわかります。イノベーティブであったり、非営利であったりといろいろなモデルを組み合わせた形である、そのような例をあげてくれました。

現場はそれが現実なのです。はっきりとビジネス的なものもあれば、社会的な目的のものもあり、もっと複雑でわかりにくいものまである。いろいろなタイプの収入源もありますし、寄付などを受け付けるところもあるでしょう。そういった多様性が面白いと思いました。

3つ目は、コンテキストの重要性です。どのような生態系や環境の中に存在するのか、どういうところに置かれているのかということを考えることが、社会的企業には重要です。

Paulはいくつか失敗例もあげてくれました。通常、ソーシャルセクターでは失敗例などはあまり話しません。地雷のスキームなどが上手くいかなかったことを皆に分け合ってくれました。

起業家は失敗するのが常で、失敗から学び、そこから向上していくわけなので、その経験をほかの人たちと分け合うのは重要です。皆さんが採用しようとするモデルが、あるコンテキストでは上手くいくけれど、違う場所に行けば上手くいかないかもしれない。そういうことは多々あります。イギリスで行うのか、アメリカなのか、それとも日本なのか。そのようなコンテキストに当てはめることも必要です。各国によって事情は大きく違い、組織、制度などが違います。その制度の中で発展していかなければならないのです。

日本はとても興味深いと思います。実際、私は日本についてよく知らないのですが、イギリスには、社会的企業にとても積極的な政府があります。一方、バングラディシュなどでは政府は積極的ではありませんが、社会的企業があるという国もあります。日本はドイツに似ているのかなと思います。政府が積極的ではあるが、しかし歴史的に見ますと、社会的企業をあまり支援しないということが見受けられます。

最後のコメントですが、本日の議論の中で明確に話したわけではありませんが、必ず出てくる用語として、社会的企業はコンビネーション、ハイブリッドなのです。考えもモデルも行動もさまざまなものがあり、民間、政府、チャリティーがあり、個別に団体がある。これらの異なったセクターを組み合わせて、イノベーションを起こすことができるのです。

先ほど申し上げたソーシャルインパクトボンド、国債あるいは債権のようなものですが、これは民間の資本を市民団体に対して使い、最終的に政府が民間団体へと資金をまわすことができるという、ハイブリッドな組み合わせだということです。

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